書籍紹介『らせんの日々』
こえラボ編集部/2025年10月29日
SNSには目立ちやすい“声”ばかりが並び、気づけば「なにかを成し遂げなければならない」と自分を追い立ててしまう。そんな社会の中で、特別な能力がなくても役割を果たさなくても、「ただ生きること」を肯定してくれるような一冊をご紹介します。
こえラボ編集部の葉山です。
本書は作家の安達茉莉子さんが京都府にある社会福祉法人・南山城(みなみやましろ)学園に一週間滞在し、職員の方々へのインタビューを通して、福祉支援のあり方について綴った本です。南山城学園では知的障害や発達障害のある方が入居できる施設・就労支援施設・介護老人保健施設・保育園・工房・診療所など、あらゆる支援を受けられる多様な施設が運営されています。
「社会福祉」と聞くと身近な人に福祉との関わりがなければどこか別世界の話のように感じてしまいますが、本書を読むと南山城学園の職員の方々が相手に向ける「人の生を認め、受け入れる」あたたかい眼差しが感じられます。本書の中では、「上から見れば、堂々めぐりのように見え、横から眺めれば後退しているようにも見える。しかし、事実は、一歩一歩であろうとも、確実にせり上がってゆくもの、それが“らせん”である」「福祉に従事することは、多かれ少なかれ、“らせん”のようなものである」という言葉が登場し、南山城学園で働く職員の方たちの、福祉支援に対する姿勢が伺えます。
こうした言葉を聞いていると、私たちが自分の“こえ”に耳を澄ませ、ありのまま生きていくことを肯定してくれるような心強さが伝わってきます。SNSは装飾された“声”に溢れていて、「なにかを成さねばいけない、できないのなら努力が足りない」という静かな圧力を持っています。しかし、『らせんの日々』で語られる南山城学園の職員の方たちの言葉とあたたかい眼差しは、私たちが、ここにいるだけの自分を許せるように寄り添ってくれます。そこには、本書が示す『らせん』、すなわち自分と他者の“こえ”をありのまま受け止め、「ただ生きること」を認めあえるような社会を成すヒントが、そっと差し出されているように思います。
そして、表紙にはまるで『らせん』をあたたかく見守っているような箔押しの装画が施されています。実物の本そのものの優しさにも、ぜひ触れてみてほしい一冊です。
※障害の表記については、本書の方針に基づき、本文と同様に漢字を採用しています
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