書籍紹介『透明な夜の香り』

こえラボ編集部/2025年12月12日

 私たちがすくいあげなかった自分の感情は、時間が経ったあとに思い返した時、全く同じものとして感じることはできません。だからこそ、常に湧き上がってくる心の“こえ”に丁寧に向き合っていかねばならない。自分の“こえ”に耳を傾け続ける姿勢を忘れないようにと、小さな気づきを与えてくれる本をご紹介します。

タイトル:透明な夜の香り
著者:千早茜
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-744509-1

 こえラボ編集部の葉山です。

 本書は、調香師・小川朔(さく)のもとで働くことになった一香(いちか)が、自らの感情に見て見ぬふりをしてきた自分自身に向き合う姿が描かれた小説です。朔は、そばにいる人のわずかな香り(少しの発汗など)からでも相手の感情の変化を察知してしまうほど鋭い嗅覚をもっています。そんな朔が、一香のまとう香りから、彼女が胸の奥底に抱えている感情を引き出すべく問いを投げかけます。「人はね、自分自身にも嘘をつくんだよ」と。

 自分の心の内に響く“こえ”は、きれいなものばかりではありません。自分の“こえ”に耳を傾ける時、自身の未熟さや様々な感情と対峙することにもなります。“こえ”に向き合わずに生きる方が感情がざわつくことも少なく、楽で穏やかに過ごせるでしょう。

 しかし湧き上がってくる“こえ”をじっくり見つめないと、その時の“こえ”はどこにいってしまうのか。あとから過去の感情を取り出し、全く同じものとして感じることはできないからこそ、いま湧き上がってくる“こえ”に、常に丁寧に向き合う必要があります。“こえ”になるまでに揺れ動く感情の過程を、ひとつひとつ細やかに感じていった先に、他者の“こえ”にも耳を傾け、つながっていける関係性があるのではないでしょうか。

 一香が、朔からの問いかけから目をそらさずに苦しみながらも過去の自身の行いに向き合う姿勢は、自分の“こえ”に丁寧に向き合うための勇気をわけてくれるように感じます。私たちが自らの“こえ”の過程を見つめることから逃げ出さなかった時、『透明な夜の香り』は物語という枠を超え、その先にある道をほのかに照らしてくれるような小説です。フィクションをお好きな方はもちろん、小説をあまり読まない方にも、手にとってもらえたら嬉しい一冊です。


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